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[気候風土適応住宅 vol.1] 風と太陽と暮らす家 ―沖縄県
― 南の島が育てたパッシブデザインの原点 ―


沖縄の強い日差しを遮る深い庇。
外壁の前に設けられた花ブロック。
南から北へと風が通り抜ける、開放的な間取り。

これらは、沖縄の厳しい暑さの中で、少しでも心地よく暮らすために受け継がれてきた建築の知恵です。

これまで本コラムでは、世界各国の省エネルギー建築を紹介してきました。

そこから見えてきたのは、優れた省エネ建築は、単に断熱性能や設備効率を高めるだけではなく、「その土地の気候から考える」という共通点を持っていることでした。

そこで今回から、日本各地の気候風土に適応した住宅を取り上げ、その土地ならではの住まいが、なぜ省エネルギーにつながるのかを考えていきます。

第1回の舞台は、日本で唯一、亜熱帯海洋性気候に属する沖縄県です。

●沖縄の住まいをつくってきた「暑さ」と「風」●

気象庁の平年値(1991~2020年)によると、那覇の年平均気温は23.3℃、年平均相対湿度は73%で、東京の15.8℃、65%をいずれも上回ります。

このような高温多湿の気候に加え、沖縄の住宅では、強い日射や台風への対応も欠かせません。そのため、暑さを室内に入れず、風を通して熱や湿気を外へ逃がす工夫が育まれてきました。

その工夫の一つが、「雨端(アマハジ)」と呼ばれる半屋外空間です。自然木の柱に支えられた深い軒が、強い日差しや雨を遮りながら、室内と屋外を緩やかにつなぐ中間領域を形成しています。

しかし戦後、鉄筋コンクリート造の住宅が普及すると、雨端が果たしてきた役割は花ブロックへと受け継がれました。

花ブロックとは、花や幾何学模様などの透かし模様が施されたコンクリート製のブロックです。外壁や窓の外側に花ブロックを設けることで、強い日差しや視線を遮りながら風を通し、室内との間に日陰のある中間領域をつくります。

木造民家の雨端から、鉄筋コンクリート造の住宅の花ブロックへ。材料や形は変わっても、自然を遮断するのではなく、日差しや風を上手に調和しながら心地よく暮らす沖縄の知恵は、今も受け継がれています。

自然の力を建築の工夫によって生かし、少ないエネルギーで快適な環境をつくる。そこには、現代にも通じる「パッシブデザイン」の原点があります。

沖縄県がつくった独自の認定基準

日本の省エネ基準は、断熱性能を高め、冷暖房によるエネルギー消費を抑えることを基本としています。

しかし、沖縄では、断熱に加え、強い日射を建物に当てない「遮熱」や、自然風によって熱や湿気を外へ逃がす工夫が欠かせません。

ところが、花ブロックや深い軒、通風、植栽などの効果は、一般的な省エネ計算では十分に評価されにくいという課題がありました。

そこで、県内の建築関係団体、行政、琉球大学の研究者などが連携して検討を重ね、沖縄県は2022年4月、「沖縄県における気候風土適応住宅認定基準」を策定しました。

全国一律のものさしだけでは捉えきれない、沖縄ならではの住まい方を制度の中で認めようとしたのです。

なぜ、認定基準は廃止されたのか

ところが、この認定基準は2025年3月に廃止されました。しかし、沖縄県が気候風土に適応した住まいづくりをやめたわけではありません。

この基準は、建築士から建築主への「説明義務制度」で使用することを目的としていました。

2025年4月から、原則としてすべての新築住宅・建築物に省エネ基準への適合が義務付けられ、それまでの説明義務制度は廃止されたため、沖縄の認定基準もいったん役割を終えたのです。

つまりこれは取り組みの終了ではなく、新たな制度への転換を意味します。

むしろ、国の法律が建築士が建築主に省エネ性能を説明する段階から、省エネ基準への適合が義務となる新しい段階へ移ったことで、沖縄でもこれまでの基準をそのまま使うのではなく、法制度との整合を図りながら、より実効性のある基準へつくり直す必要が生じたと考えられます。

「沖縄型の省エネ」を、もう一度問い直す

沖縄県は現在、よりよい沖縄型の気候風土適応住宅の基準を検討し、関係機関などの意見を踏まえながら、早期の運用開始を目指しています。

これから問われるのは、地域の建築文化と、国が定める省エネ基準をどのように両立させるかという課題です。先に述べたように、沖縄では断熱だけでなく、強い日射を遮ることや、高温多湿の環境に応じた通風・除湿などの対策も不可欠です。

「自然の風を生かす開放的な暮らし」と「冷房や除湿を効率よく使う閉じた環境」。

そのどちらか一方に偏るのではなく、季節や時間、天候に応じて両者を使い分けることが大切です。自然の力を生かす設計と、少ないエネルギーで快適性を支える設備技術を組み合わせることが、これからの沖縄型省エネ住宅の姿ではないでしょうか。

●「沖縄型の省エネ」を、もう一度問い直す●

省エネというと、断熱材や高性能な設備を導入し、計算上の数値を小さくすることに目が向きがちです。

しかし、筆者は、高断熱・高気密にすれば、それだけで省エネになるとは限らないと考えています。大切なのは、機械を効率よく動かす前に、機械を必要とする時間と負荷を、建築の工夫によって減らすことです。

その土地の気候を読み、日差しや風などの自然の力を生かしながら、必要な設備を適切に組み合わせる。

さらに、地域で培われた材料や技術を使い、修繕を重ねながら建物を長く使い続けることができれば、建設や解体に伴う資源消費とCO₂排出量も削減できます。

その土地の気候風土に寄り添い、自然の力を生かしながら暮らすこと。古くから受け継がれてきたその知恵の中にこそ、これからの省エネ建築が目指すべき姿があるのではないでしょうか。

次回は、厳しい寒さと向き合いながら発展してきた長野県の住まいを訪ね、「熱を守る建築」について考えてみたいと思います。

 

 

【参考資料】
・亜熱帯型省エネ住宅ガイドライン-快適な沖縄の住まいのために(発行:平成27年3月)

・『風土に根ざした家づくり手引書』(令和4年度版)

・「建築物省エネ法と沖縄の気候風土適応住宅」琉球大学工学部・清水肇教授の研究紹介

・建築物の省エネルギー対策について:沖縄県HP

・那覇の平年値

・東京の平年値

著者プロフィール
田中知代(たなか・ともよ)
株式会社空間メソッド企画 代表取締役
千葉市在住
建築設計事務所、建築物の遵法性調査、指定確認検査機関での勤務を経て起業。建築関係法規のコンサルティング、建築に係る教育、セミナーなどの業務を行う。千葉県建築士会主催の公開勉強会、法規セミナー、その他学校教育機関の講師経験など多数。実務に直結する法規教育を提供。
メルマガ配信やLINEオープンチャット「建築法規を好きになろう」の『つぶやき』で、建築法規をわかりやすく解説。千葉県建築士会会報誌「建築士CHIBA」で建築法規を楽しく学べる「基準法であそぼ」連載中。
一級建築士/建築基準適合判定資格者/宅地建物取引士/インテリアコーディネーター資格保有