PAGE
TOP

  • ご相談・ご質問はこちら
    TEL:03-5723-6462 [受付時間:平日9:00〜18:00]
  • お問合せ

省エネコラム

省エネを建築のデザイン価値にした国
~オーストラリアのグリーンビルディング思想~

広大な大地と強い日差し、乾燥した気候、そして地域ごとに大きく異なる自然条件。オーストラリアの建築は、こうした環境と向き合いながら発展してきた歴史があります。

省エネと聞くと、設備や数値による管理を思い浮かべがちですが、オーストラリアでは「地域の自然をどう味方につけるか」という発想が根底にあります。

そんなオーストラリアは、建物のライフサイクルを通して環境に配慮した建築物を作るプロセス「グリーンビルディング」のデザインリーダーと評されています。

この記事では、オーストラリアの省エネへのアプローチについて見てみましょう。

●住宅も非住宅も「見える化」するオーストラリア建築の評価制度●

オーストラリアでは、住宅分野において「NatHERS(Nationwide House Energy Rating Scheme:全豪住宅省エネ性評価システム)」と呼ばれる評価システムが、2003年頃から実務面でも本格運用されています。

NatHERSは間取りや建物の向き、断熱性能、日射取得、通風計画などをもとに年間の冷暖房負荷を算定し、星の数で省エネ性能を評価します。星の数は1から10まであり、数が多いほど「省エネ性能に優れる」ことを示します。

各州の建築規制(NCC:National Construction Code:国家建設コード)では最低星数が定められ、基準に満たない設計は原則として認められません。

一方、非住宅では、同じく2003年にGBCA(Green Building Council of Australia:オーストラリア・グリーンビルディング協議会)が創設した「Green Star」認証が普及し、エネルギー、水資源、資材、室内環境、運用管理まで含めて「その建物がどれだけ持続可能か」を第三者が総合的に評価します。

このように住宅分野ではNatHERS、非住宅分野ではGreen Star認証と二つの制度により、オーストラリアでは建物の設計段階からその環境性能を可視化してきました。

このことが、オーストラリアの建築の省エネ性能を世界水準へと押し上げることに貢献したと考えられています。

●省エネを守る建築から、環境性能をデザインする建築へ●

NatHERSの評価基準は、単なる設備効率ではなく、建物の向き、窓の配置、庇の出、断熱・気密、自然換気、太陽の軌道による日陰さえも対象とするパッシブ要素を重視します。

たとえば、冬季の日射取得と夏季の遮蔽、夜間冷却を活かした通風設計など、建物の「かたち」そのものが省エネ性能をどれだけ満たしているかも評価対象となります。

Green Starにおいても、再生可能エネルギー導入だけでなく、ライフサイクルCO₂削減のほか、空気・光・音響・有害物質への接触などの快適性、土地利用と生態系なども評価対象です。

Green Starは、単なる「環境にやさしい建物の称号」ではありません。
どれだけ持続可能かを客観的に数値と星で証明し、設計の質を「見える化」しています。そして、米国のLEED※1、英国のBREEAM※2、日本のCASBEE※3と並ぶ、国際的なグリーンビルディング認証制度として位置づけられています。

また、こうした工夫により冷暖房への依存を減らし、自然と調和して暮らすための設計は、単に「省エネ基準を満たす」だけにとどまらず、環境性能そのものを、建築の価値としてデザインに昇華させたと言えるでしょう。

●地域最適化という建築評価の答え●

オーストラリアは一国でありながら、熱帯、乾燥帯、温帯と多様な気候を抱えています。そのため、NatHERSは気候区分ごとの気象データを用いたシミュレーションにより、地域特性に応じた最適解を導きます。

高温多湿地域では通風と日射遮蔽、寒冷地域では高断熱・気密、乾燥地帯では夜間冷却の活用が重視されるといったように、画一的な仕様ではなくローカルに最適化された設計が評価される仕組みです。

この仕組みは、設計者の思考を「基準を満たすこと」から、「その土地の気候や環境に最適化すること」へと転換させます。気候を読み、その特性に対して建築のかたちで応答する設計力が、より強く求められるのです。

NatHERSは、全国共通の評価軸を持ちながら、地域ごとの気候条件を前提に設計の質を評価するという二層構造を採っています。この評価の考え方は、オーストラリアにおける建築設計のあり方そのものに、確かな影響を与えています。

●日本の住まいに活かせる視点●

オーストラリアの強みは、NatHERSとGreen Starという制度設計と、パッシブデザインを核とする設計思想の両立にあります。性能を「見える化」し、建物の向きや開口、庇、通風といった基本的な設計でエネルギーを削減する。エネルギーを減らすだけでなく、健康・資源・水・生態系・運用まで含めた「建築のあり方そのもの」を評価する。

オーストラリアの省エネ建築が教えてくれるのは、「省エネ=高性能設備」だけではない、ということです。持続可能性と環境そのものを建物の設計に統合し、自然環境と調和して共存する建築物を作ることを目指しています。これこそが、オーストラリアが「グリーンビルディングのデザインのリーダー」と呼ばれる理由でもあります。

日本でも、地域の気候を読み解き、自然と調和する住まいをつくることが、これからの省エネの本質ではないでしょうか。数値と同時に、暮らしの感覚を大切にする建築。そのヒントが、オーストラリアの住宅には詰まっています。

次回は、「グリーンビルディング」について、各国の取り組みを軸に掘り下げてみたいと思います。

———————————-

※1 米国のLEED(Leadership in Energy & Environmental Design)
※2 英国のBREEAM(Building Research Establishment Environmental Assessment Method)
※3 日本のCASBEE(Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency)

<参考資料>
1:NatHERS(Nationwide House Energy Rating Scheme)
https://www.nathers.gov.au/

2:National Construction Code(NCC)
https://ncc.abcb.gov.au/

3:Green Star(Green Building Council Australia)
https://new.gbca.org.au/green-star/exploring-green-star/

4:Your Home
https://www.yourhome.gov.au/live-adapt/zero-carbon

5:諸外国の省エネ政策動向
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/pdf/043_01_00.pdf

著者プロフィール
田中知代(たなか・ともよ)
株式会社空間メソッド企画 代表取締役
千葉市在住
建築設計事務所、建築物の遵法性調査、指定確認検査機関での勤務を経て起業。建築関係法規のコンサルティング、建築に係る教育、セミナーなどの業務を行う。千葉県建築士会主催の公開勉強会、法規セミナー、その他学校教育機関の講師経験など多数。実務に直結する法規教育を提供。
メルマガ配信やLINEオープンチャット「建築法規を好きになろう」の『つぶやき』で、建築法規をわかりやすく解説。千葉県建築士会会報誌「建築士CHIBA」で建築法規を楽しく学べる「基準法であそぼ」連載中。
一級建築士/建築基準適合判定資格者/宅地建物取引士/インテリアコーディネーター資格保有

建物がエネルギーを支える時代へ
~カリフォルニア州 Title24 に学ぶ~
トップへ戻る

CATEGORY