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省エネコラム

ドイツの省エネ基準が示す「これからの日本の集合住宅」
~省エネ住宅の「心地よさ」を体感する~

2025年4月より、すべての建築物が省エネ基準への適合対象となり、住宅に求められる性能は大きく変わりつつあります。
さらに近年、夏の猛暑や気候変動による寒暖の差が一段と厳しくなり、快適性の向上が求められています。
「省エネ」という言葉はすでに一般的になりましたが、果たしてそれは、暮らしの質をどこまで高めているのでしょうか。

今回見学したのは、ドイツの省エネ基準を参考に設計された集合住宅「MEGUROHAUS」です。
数値や理論としては知っていても、実際の建物として体感する機会は多くありません。本記事では、その空間体験と設計思想から、日本の建築物の省エネ対策のこれからを考えてみたいと思います。

▲外観:外付けブラインド(夏季想定)

●ドイツ基準が目指すもの●

ドイツの省エネ基準の特徴は、単なる設備効率ではなく、建物そのものの性能を最大限に高める点にあります。高断熱・高気密を前提とし、外皮性能、日射制御、換気までを一体で考えます。

MEGUROHAUSでは、この思想に基づき、鉄筋コンクリート造の躯体を150mm厚の湿式外断熱で包み込み、開口部には外付けブラインド、高い断熱性を持つLow-Eペアガラスのアルミサッシと樹脂製ペアガラスサッシの内窓を組み合わせています。
躯体は外気の影響を受けにくい外断熱としているため、温度変化が極めて緩やかで、夏季において住戸内の温度変化は、約0.5度となっています。これは「省エネ」はもちろんのこと、躯体を保護することで建物を長く、安定して使い続けるために有効な工法です。

▲サッシ廻り:外付けブラインド+外部サッシ+内窓

●体感できる快適性と健康性●

室内に入ってまず驚いたのは、窓際の違和感のなさです。一般的な集合住宅で感じがちな、冬の冷気がありません。
コールドドラフトが抑えられ、床・壁・天井がほぼ同じ温度感で、空間全体が穏やかに包まれています。
メゾネット住宅で設置されているエアコンは1台のみ。見学の日は、その1台さえ使用していませんでした。それでも非常に快適な空間となっています。

また、第一種熱交換換気システムにより、24時間新鮮な空気を確保しながら、熱ロスを最小限に抑えています。測定結果によると、外気温が大きく変動する夏季・冬季でも、室温変動が非常に小さいことが示されていました。
これは快適性だけでなく、ヒートショックの抑制や睡眠の質の向上といった健康面にも直結します。省エネ性能が「住まい手の健康」を支えていることを、数値としても実感としても理解できました。

▲メゾネット上下階の温度差:約1度

●「窓を小さくしない省エネ」という選択●

高断熱・高気密の建物では、日射対策が欠かせません。MEGUROHAUSでは、BIMによる詳細な日射シミュレーションを行い、南面を中心に外付けブラインドを採用しています。
外付けブラインドは、日射を建物の外で遮るため、冷房負荷を大幅に低減します。日射熱負荷シミュレーションによれば、夏季の日射取得熱量は約8割、冷房負荷は約6割削減されています。

注目すべきは、その結果として大きな開口部を確保できている点です。省エネ=窓を小さくする、という発想ではなく、設計の工夫によって快適さと省エネを両立させている。ここに、ドイツ基準の本質と、日本の設計者が学ぶべき姿勢があると感じました。

▲南東向きサッシ:日射取得を考慮した大開口

●日本の集合住宅への示唆●

MEGUROHAUSの見学を通じて感じたのは、ドイツ基準が示すのは「特別な住宅」ではなく、本来あるべき住宅の姿だということです。
エネルギー消費は約6割削減され、長期的には光熱費の低減と躯体の保護による資産価値の維持にもつながる。これは環境配慮であると同時に、極めて現実的な選択です。

日本では、遅くとも2030年までに、省エネ基準をZEH・ZEB水準まで引き上げる予定となっています。基準は厳しくなるものの、まだまだ、高性能な設備を設置することで「省エネ」と呼んでいる現実があります。
これからの日本の集合住宅には、高性能な設備に頼るのではなく、建物そのものの性能で暮らしを支える設計が求められます。
それには、「エネルギーを必要としない建物」を最初から設計することが重要なのです。

古来から日本の伝統建築に見られるように、土壁の蓄熱や調湿、風通しの良い間取り、すだれをかけるなど、もう一度、日本の建築を見直す良い機会となるのではないでしょうか。
ドイツ基準を満たしたこの建物は、日本の建築の在り方を、その確かな方向に導いているのです。

著者プロフィール
田中知代(たなか・ともよ)
株式会社空間メソッド企画 代表取締役
千葉市在住
建築設計事務所、建築物の遵法性調査、指定確認検査機関での勤務を経て起業。建築関係法規のコンサルティング、建築に係る教育、セミナーなどの業務を行う。千葉県建築士会主催の公開勉強会、法規セミナー、その他学校教育機関の講師経験など多数。実務に直結する法規教育を提供。
メルマガ配信やLINEオープンチャット「建築法規を好きになろう」の『つぶやき』で、建築法規をわかりやすく解説。千葉県建築士会会報誌「建築士CHIBA」で建築法規を楽しく学べる「基準法であそぼ」連載中。
一級建築士/建築基準適合判定資格者/宅地建物取引士/インテリアコーディネーター資格保有

省エネを建築のデザイン価値にした国
~オーストラリアのグリーンビルディング思想~
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