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株式会社空間メソッド企画 田中様による省エネコラム「グリーンビルディングという世界共通語 ~性能を競う時代から、自然と調和する時代へ~」をアップいたしました。

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省エネや環境配慮は、もはや一部の先進的な建築の話ではなく、世界の建築に共通する前提条件になりつつあります。

本コラム「エコテラス」ではこれまで、ドイツ、フランス、スウェーデン、韓国、中国、カリフォルニア、オーストラリアと、地域も社会背景も異なる国々の省エネ・環境建築の取り組みを見てきました。

制度や数値はさまざまでも、根底で共通しているのは「建築が社会とどう向き合うか」という問いです。

今回は、それらを踏まえながら、グリーンビルディングの世界的な定義と向かう方向、日本がこれから目指すべき道を整理してみたいと思います。

●世界が共有するグリーンビルディングの定義●

世界的に見たとき、グリーンビルディングは単なる省エネルギー建築を意味しません。
WorldGBC(World Green Building Council:世界グリーンビルディング協議会)は、ネットワークとして取り組む主要なインパクト領域として、以下の4項目を示しています。

1: Climate action(気候変動対策)
2: Resources and circularity(資源と循環性)
3: Health, equity and resilience(健康・公平性・レジリエンス)
4: Sustainable finance and ESG(持続可能な金融とESG)

これらを統合すると、

『建物のライフサイクル全体を通じて、環境負荷を低減し、人の健康や快適性を高め、経済的・社会的価値を持続的に生み出す建築』

これが国際的に共有されているグリーンビルディングの定義と言えるでしょう。

これまで見てきたどの国でも、省エネは「目的」ではなく、「社会を支える手段」として位置づけられています。

つまり、グリーンビルディングの概念は、環境性能だけでなく、人・社会・未来まで含めて「持続可能性をデザインした建築」であることが前提となっています。

そして重要なのは、評価基準の数値を競うための建築ではなく、建物と人、さらには植物を含めた自然と調和するための建築という考え方です。

●世界が向かう方向と、日本とのずれ●

世界の流れを俯瞰すると、グリーンビルディングは「性能を満たす建築」から「価値を生み続ける建築」へと軸足を移しています。
エネルギー削減に加え、健康、快適性、レジリエンス、地域との関係性まで含めて評価する方向です。

一方、日本では依然として「基準を守ること」が中心に置かれがちです。
省エネ基準は最低限の安全ラインとして重要ですが、それだけでは建築の可能性を広げることはできません。

世界が「どんな暮らしを実現する建築か」を問うのに対し、日本は「違反しないかどうか」に意識が向きやすい。この視点の違いが、グリーンビルディングへの距離感を生んでいます。

●国ごとに基準が違う理由●

国によって省エネ・環境建築の基準が異なるのは、決して足並みが揃っていないからではありません。
気候条件、エネルギー事情、住宅ストック、社会制度、そして建築に求められる役割が違うからです。

寒冷地のスウェーデンと温暖なオーストラリアが同じ数値基準になることはあり得ませんし、再生可能エネルギー比率の高い国と化石燃料依存の国では、評価の重点も変わります。

重要なのは「どの基準が正しいか」ではなく、「その国の社会課題にどう応えているか」ではないでしょうか。

グリーンビルディングは、世界共通の思想を持ちつつも、地域ごとに柔軟な対策を講じながら実行可能な概念なのです。

●日本がこれから向かうべき方向●

それでは、私たちの暮らす日本では、「日本の地域特性に適応したグリーンビルディング」をどのように作り上げていけばいいのでしょうか?

日本がこれから目指すグリーンビルディングは、海外基準をそのまま輸入することではありません。
日本の気候、木造建築文化、都市構造、暮らし方を踏まえた上で、世界基準に呼応できる独自の思想をつくることです。

それには、省エネを「義務」ではなく「建築の価値」に変えること。
数値を守る建築から、未来を見据え、人と自然が調和する建築へと視点を広げること。
その先に、日本ならではのグリーンビルディングの姿が見えてくるはずです。

エコテラスが見てきた世界の事例は、日本の建築がこれから進むためのヒントをすでに示しています。
日本がもともと持っている木造建築や歴史的建築の良さを理解したうえで、建築を通して、どんな社会や暮らしを描いていくのか。
その「描いた未来」につなげる意思を、まず持つことが重要なのではないでしょうか。

そして、グリーンビルディングという世界共通語を、日本語としてどう語るのか。
いま、その姿勢そのものが問われているのです。

次回は、熱帯気候という厳しい条件下で成果を出しているシンガポールの取り組みを掘り下げてみたいと思います。

———————————-

<参考資料>
1 WorldGBC Mission & Impact Areas(公式)
https://worldgbc.org/about-us/our-mission/

2 Green Building Japan
https://www.gbj.or.jp/whats-green-building/

3 spaceshipearth
https://spaceshipearth.jp/greenbuilding/

著者プロフィール
田中知代(たなか・ともよ)
株式会社空間メソッド企画 代表取締役
千葉市在住
建築設計事務所、建築物の遵法性調査、指定確認検査機関での勤務を経て起業。建築関係法規のコンサルティング、建築に係る教育、セミナーなどの業務を行う。千葉県建築士会主催の公開勉強会、法規セミナー、その他学校教育機関の講師経験など多数。実務に直結する法規教育を提供。
メルマガ配信やLINEオープンチャット「建築法規を好きになろう」の『つぶやき』で、建築法規をわかりやすく解説。千葉県建築士会会報誌「建築士CHIBA」で建築法規を楽しく学べる「基準法であそぼ」連載中。
一級建築士/建築基準適合判定資格者/宅地建物取引士/インテリアコーディネーター資格保有

MEGUROHAUS見学会コラム「ドイツの省エネ基準が示す「これからの日本の集合住宅」~省エネ住宅の「心地よさ」を体感する~」をアップいたしました。

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本コラムでは、エコテラスと株式会社one buildingの共催により、2026年2月5日に開催された高断熱住宅「MEGUROHAUS(メグロハウス)」見学会の様子をご紹介します。

会場となった「MEGUROHAUS」は、株式会社one buildingの共同代表である金田氏が、自身の設計事務所にて設計を手がけた共同住宅です。今回は、one buildingが現在管理している1室を、見学会の会場としてご提供いただきました。金田氏は現在ドイツ在住で、現地の設計事務所での実務経験を基に本建物を設計されています。

見学会は、ドイツの省エネ設計思想を日本の都市型集合住宅にどのように取り入れているのかを、実際の空間を通して体感いただくことを目的に企画しました。
当日の見学会案内は、株式会社one buildingの加藤逍太郎氏が担当し、建物見学とあわせて、本プロジェクトの考え方や省エネルギーに関する取り組みについても参加者の皆さまをご案内しました。

本コラムでは、当日の見学内容や見学会で紹介された内容について、株式会社空間メソッド企画の田中知代氏の視点からご紹介しています。

2025年4月より、すべての建築物が省エネ基準への適合対象となり、住宅に求められる性能は大きく変わりつつあります。
さらに近年、夏の猛暑や気候変動による寒暖の差が一段と厳しくなり、快適性の向上が求められています。
「省エネ」という言葉はすでに一般的になりましたが、果たしてそれは、暮らしの質をどこまで高めているのでしょうか。

今回見学したのは、ドイツの省エネ基準を参考に設計された集合住宅「MEGUROHAUS」です。
数値や理論としては知っていても、実際の建物として体感する機会は多くありません。本記事では、その空間体験と設計思想から、日本の建築物の省エネ対策のこれからを考えてみたいと思います。

▲外観:外付けブラインド(夏季想定)

●ドイツ基準が目指すもの●

ドイツの省エネ基準の特徴は、単なる設備効率ではなく、建物そのものの性能を最大限に高める点にあります。高断熱・高気密を前提とし、外皮性能、日射制御、換気までを一体で考えます。

MEGUROHAUSでは、この思想に基づき、鉄筋コンクリート造の躯体を150mm厚の湿式外断熱で包み込み、開口部には外付けブラインド、高い断熱性を持つLow-Eペアガラスのアルミサッシと樹脂製ペアガラスサッシの内窓を組み合わせています。
躯体は外気の影響を受けにくい外断熱としているため、温度変化が極めて緩やかで、夏季において住戸内の温度変化は、約0.5度となっています。これは「省エネ」はもちろんのこと、躯体を保護することで建物を長く、安定して使い続けるために有効な工法です。

▲サッシ廻り:外付けブラインド+外部サッシ+内窓

●体感できる快適性と健康性●

室内に入ってまず驚いたのは、窓際の違和感のなさです。一般的な集合住宅で感じがちな、冬の冷気がありません。
コールドドラフトが抑えられ、床・壁・天井がほぼ同じ温度感で、空間全体が穏やかに包まれています。
メゾネット住宅で設置されているエアコンは1台のみ。見学の日は、その1台さえ使用していませんでした。それでも非常に快適な空間となっています。

また、第一種熱交換換気システムにより、24時間新鮮な空気を確保しながら、熱ロスを最小限に抑えています。測定結果によると、外気温が大きく変動する夏季・冬季でも、室温変動が非常に小さいことが示されていました。
これは快適性だけでなく、ヒートショックの抑制や睡眠の質の向上といった健康面にも直結します。省エネ性能が「住まい手の健康」を支えていることを、数値としても実感としても理解できました。

▲メゾネット上下階の温度差:約1度

●「窓を小さくしない省エネ」という選択●

高断熱・高気密の建物では、日射対策が欠かせません。MEGUROHAUSでは、BIMによる詳細な日射シミュレーションを行い、南面を中心に外付けブラインドを採用しています。
外付けブラインドは、日射を建物の外で遮るため、冷房負荷を大幅に低減します。日射熱負荷シミュレーションによれば、夏季の日射取得熱量は約8割、冷房負荷は約6割削減されています。

注目すべきは、その結果として大きな開口部を確保できている点です。省エネ=窓を小さくする、という発想ではなく、設計の工夫によって快適さと省エネを両立させている。ここに、ドイツ基準の本質と、日本の設計者が学ぶべき姿勢があると感じました。

▲南東向きサッシ:日射取得を考慮した大開口

●日本の集合住宅への示唆●

MEGUROHAUSの見学を通じて感じたのは、ドイツ基準が示すのは「特別な住宅」ではなく、本来あるべき住宅の姿だということです。
エネルギー消費は約6割削減され、長期的には光熱費の低減と躯体の保護による資産価値の維持にもつながる。これは環境配慮であると同時に、極めて現実的な選択です。

日本では、遅くとも2030年までに、省エネ基準をZEH・ZEB水準まで引き上げる予定となっています。基準は厳しくなるものの、まだまだ、高性能な設備を設置することで「省エネ」と呼んでいる現実があります。
これからの日本の集合住宅には、高性能な設備に頼るのではなく、建物そのものの性能で暮らしを支える設計が求められます。
それには、「エネルギーを必要としない建物」を最初から設計することが重要なのです。

古来から日本の伝統建築に見られるように、土壁の蓄熱や調湿、風通しの良い間取り、すだれをかけるなど、もう一度、日本の建築を見直す良い機会となるのではないでしょうか。
ドイツ基準を満たしたこの建物は、日本の建築の在り方を、その確かな方向に導いているのです。

【MEGUROHAUS(メグロハウス)建物概要】

所在地:東京都品川区上大崎
主用途:共同住宅
地域・地区:第一種中高層住居専用地域
構造・規模:鉄筋コンクリート造/地下1階・地上6階建て

【MEGUROHAUSの主な4つの特徴】
1.外断熱システム EPS 150mm
2.2重サッシ
3.外付電動ブラインド
4.壁付熱交換換気設備(24時間換気)
[作品詳細]

【株式会社one building】
株式会社one buildingは、テクノロジーで建築の未来をデザインするClimate Tech企業です。デジタル技術で建築情報を統合・活用し、持続可能な社会の構築を目指しています。建物の性能最適化と長寿命化を実現するサステナブル建築の標準化を推進し、次世代の建築をリードします。
URL:https://one-building.co.jp

著者プロフィール
田中知代(たなか・ともよ)
株式会社空間メソッド企画 代表取締役
千葉市在住
建築設計事務所、建築物の遵法性調査、指定確認検査機関での勤務を経て起業。建築関係法規のコンサルティング、建築に係る教育、セミナーなどの業務を行う。千葉県建築士会主催の公開勉強会、法規セミナー、その他学校教育機関の講師経験など多数。実務に直結する法規教育を提供。
メルマガ配信やLINEオープンチャット「建築法規を好きになろう」の『つぶやき』で、建築法規をわかりやすく解説。千葉県建築士会会報誌「建築士CHIBA」で建築法規を楽しく学べる「基準法であそぼ」連載中。
一級建築士/建築基準適合判定資格者/宅地建物取引士/インテリアコーディネーター資格保有

株式会社空間メソッド企画 田中様による省エネコラム「省エネを建築のデザイン価値にした国 ~オーストラリアのグリーンビルディング思想~」をアップいたしました。

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広大な大地と強い日差し、乾燥した気候、そして地域ごとに大きく異なる自然条件。オーストラリアの建築は、こうした環境と向き合いながら発展してきた歴史があります。

省エネと聞くと、設備や数値による管理を思い浮かべがちですが、オーストラリアでは「地域の自然をどう味方につけるか」という発想が根底にあります。

そんなオーストラリアは、建物のライフサイクルを通して環境に配慮した建築物を作るプロセス「グリーンビルディング」のデザインリーダーと評されています。

この記事では、オーストラリアの省エネへのアプローチについて見てみましょう。

●住宅も非住宅も「見える化」するオーストラリア建築の評価制度●

オーストラリアでは、住宅分野において「NatHERS(Nationwide House Energy Rating Scheme:全豪住宅省エネ性評価システム)」と呼ばれる評価システムが、2003年頃から実務面でも本格運用されています。

NatHERSは間取りや建物の向き、断熱性能、日射取得、通風計画などをもとに年間の冷暖房負荷を算定し、星の数で省エネ性能を評価します。星の数は1から10まであり、数が多いほど「省エネ性能に優れる」ことを示します。

各州の建築規制(NCC:National Construction Code:国家建設コード)では最低星数が定められ、基準に満たない設計は原則として認められません。

一方、非住宅では、同じく2003年にGBCA(Green Building Council of Australia:オーストラリア・グリーンビルディング協議会)が創設した「Green Star」認証が普及し、エネルギー、水資源、資材、室内環境、運用管理まで含めて「その建物がどれだけ持続可能か」を第三者が総合的に評価します。

このように住宅分野ではNatHERS、非住宅分野ではGreen Star認証と二つの制度により、オーストラリアでは建物の設計段階からその環境性能を可視化してきました。

このことが、オーストラリアの建築の省エネ性能を世界水準へと押し上げることに貢献したと考えられています。

●省エネを守る建築から、環境性能をデザインする建築へ●

NatHERSの評価基準は、単なる設備効率ではなく、建物の向き、窓の配置、庇の出、断熱・気密、自然換気、太陽の軌道による日陰さえも対象とするパッシブ要素を重視します。

たとえば、冬季の日射取得と夏季の遮蔽、夜間冷却を活かした通風設計など、建物の「かたち」そのものが省エネ性能をどれだけ満たしているかも評価対象となります。

Green Starにおいても、再生可能エネルギー導入だけでなく、ライフサイクルCO₂削減のほか、空気・光・音響・有害物質への接触などの快適性、土地利用と生態系なども評価対象です。

Green Starは、単なる「環境にやさしい建物の称号」ではありません。
どれだけ持続可能かを客観的に数値と星で証明し、設計の質を「見える化」しています。そして、米国のLEED※1、英国のBREEAM※2、日本のCASBEE※3と並ぶ、国際的なグリーンビルディング認証制度として位置づけられています。

また、こうした工夫により冷暖房への依存を減らし、自然と調和して暮らすための設計は、単に「省エネ基準を満たす」だけにとどまらず、環境性能そのものを、建築の価値としてデザインに昇華させたと言えるでしょう。

●地域最適化という建築評価の答え●

オーストラリアは一国でありながら、熱帯、乾燥帯、温帯と多様な気候を抱えています。そのため、NatHERSは気候区分ごとの気象データを用いたシミュレーションにより、地域特性に応じた最適解を導きます。

高温多湿地域では通風と日射遮蔽、寒冷地域では高断熱・気密、乾燥地帯では夜間冷却の活用が重視されるといったように、画一的な仕様ではなくローカルに最適化された設計が評価される仕組みです。

この仕組みは、設計者の思考を「基準を満たすこと」から、「その土地の気候や環境に最適化すること」へと転換させます。気候を読み、その特性に対して建築のかたちで応答する設計力が、より強く求められるのです。

NatHERSは、全国共通の評価軸を持ちながら、地域ごとの気候条件を前提に設計の質を評価するという二層構造を採っています。この評価の考え方は、オーストラリアにおける建築設計のあり方そのものに、確かな影響を与えています。

●日本の住まいに活かせる視点●

オーストラリアの強みは、NatHERSとGreen Starという制度設計と、パッシブデザインを核とする設計思想の両立にあります。性能を「見える化」し、建物の向きや開口、庇、通風といった基本的な設計でエネルギーを削減する。エネルギーを減らすだけでなく、健康・資源・水・生態系・運用まで含めた「建築のあり方そのもの」を評価する。

オーストラリアの省エネ建築が教えてくれるのは、「省エネ=高性能設備」だけではない、ということです。持続可能性と環境そのものを建物の設計に統合し、自然環境と調和して共存する建築物を作ることを目指しています。これこそが、オーストラリアが「グリーンビルディングのデザインのリーダー」と呼ばれる理由でもあります。

日本でも、地域の気候を読み解き、自然と調和する住まいをつくることが、これからの省エネの本質ではないでしょうか。数値と同時に、暮らしの感覚を大切にする建築。そのヒントが、オーストラリアの住宅には詰まっています。

次回は、「グリーンビルディング」について、各国の取り組みを軸に掘り下げてみたいと思います。

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※1 米国のLEED(Leadership in Energy & Environmental Design)
※2 英国のBREEAM(Building Research Establishment Environmental Assessment Method)
※3 日本のCASBEE(Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency)

<参考資料>
1:NatHERS(Nationwide House Energy Rating Scheme)
https://www.nathers.gov.au/

2:National Construction Code(NCC)
https://ncc.abcb.gov.au/

3:Green Star(Green Building Council Australia)
https://new.gbca.org.au/green-star/exploring-green-star/

4:Your Home
https://www.yourhome.gov.au/live-adapt/zero-carbon

5:諸外国の省エネ政策動向
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/pdf/043_01_00.pdf

著者プロフィール
田中知代(たなか・ともよ)
株式会社空間メソッド企画 代表取締役
千葉市在住
建築設計事務所、建築物の遵法性調査、指定確認検査機関での勤務を経て起業。建築関係法規のコンサルティング、建築に係る教育、セミナーなどの業務を行う。千葉県建築士会主催の公開勉強会、法規セミナー、その他学校教育機関の講師経験など多数。実務に直結する法規教育を提供。
メルマガ配信やLINEオープンチャット「建築法規を好きになろう」の『つぶやき』で、建築法規をわかりやすく解説。千葉県建築士会会報誌「建築士CHIBA」で建築法規を楽しく学べる「基準法であそぼ」連載中。
一級建築士/建築基準適合判定資格者/宅地建物取引士/インテリアコーディネーター資格保有

株式会社空間メソッド企画 田中様による省エネコラム「建物がエネルギーを支える時代へ ~カリフォルニア州 Title24 に学ぶ~」をアップいたしました。

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アメリカの省エネ政策は、第2期トランプ政権の発足により、パリ協定離脱や化石燃料生産の促進など、気候変動対策から大きく方向転換しています。

しかし、実際に建築物の省エネを支えているのは「州」の取り組みです。なかでもカリフォルニア州の建築エネルギー効率基準「Title24」は、連邦政府の方針が揺れる中でも強い独自性を持ち、世界でもトップクラスの省エネ水準を維持しています。本コラムでは、その背景を制度から紐解いていきましょう。

●アメリカの省エネ基準は“国の法律”では完結しない●

アメリカの建築物に関する省エネ基準は、連邦政府が一律に決めるのではなく、各州が独自に基準を制定できる権限を持っています。

連邦政府は「IECC:International Energy Conservation Code(国際省エネルギーコード)」や「ASHRAE standard 90.1」などの推奨省エネコードを示しますが、その採否や上回る基準づくりは州ごとの判断に委ねられています。

これにより、地域の気候や産業に合わせたきめ細かな制度設計が可能となる一方、州ごとに省エネ基準の厳格さに差異を生む要因にもなっています。

カリフォルニア州では、この権限を積極的に活用し、独自の基準「Title24」を発展させてきました。

Title24は、断熱・設備効率に加え、電化、太陽光発電、蓄電池、換気など、建物全体のエネルギー設計を包括的に扱い、州のエネルギー政策を直接反映できる点が特徴です。

●トランプ政権で起きた“連邦の後退”と混乱●

バイデン政権では気候変動対策として、省エネ強化や連邦施設の脱炭素化を推進していましたが、トランプ政権になると政策が大きく転換しました。

連邦建物の省エネ基準の適用停止、環境規制の見直し、再エネ支援の縮小などが相次ぎ、国としての省エネ推進力は低下しました。

この方針転換により、建築業界では補助金や税制優遇の見通しが不透明となり、省エネ設備への投資判断が難しくなる場面も生まれました。

しかし、その一方で、州の取り組みがむしろ存在感を増してきました。

●それでも Title24が世界をリードする理由●

Title24は1978年に導入されて以来、3年ごとに見直され、最新版は2025年に発表されています。連邦政府の方針が変わっても、Title24が一貫して強化され続けているのには理由があります。

まず思想的背景として、カリフォルニア州では建物を単なる私有財産ではなく、電力需給や気候変動対策、災害や停電などの非常時にも機能を維持し、回復できる力を支える社会インフラの一部として捉えてきました。

そのため省エネ性能の向上は努力目標ではなく、社会的責務と位置づけられています。

さらに干ばつや猛暑、山火事、停電といった深刻な気候条件のもと、大規模な発電所と送電網による集中型エネルギーシステムの限界が明確になり、建物単位で太陽光発電・蓄電・需要応答※1を含む電化を統合する分散型エネルギーが求められました。

思想の一貫性と厳しい現実が重なり、Title24は省エネ基準を超えた制度へ進化し、その結果、Title24は世界的に非常に高い評価を得ています。

●最先端が立ち返る、建築の原点●

Title24 の根底にあるのは、建物単体の性能評価ではなく、社会全体のエネルギー循環の中での役割です。

今、建築士に求められているのは、「断熱だけを良くする」「設備だけを高効率化する」という性能の足し算ではなく、建物全体のエネルギーの流れを設計する力なのです。

ここで面白いのは、Title24 が示している思想が、日本の古民家がもともと持っていた考え方と深く重なることです。

古民家は、電気や機械設備が乏しい時代に、日射を取り込み、風を通し、熱を逃がし、季節ごとに使い方を変えることで、自然エネルギーを受け止め、調整する装置でした。

Title24 もまた、機械で全てを制御するのではなく、時間帯、需要、天候、行動との関係性を前提にエネルギーを設計しています。

最先端の省エネ基準が、最も古い日本建築の知恵に立ち返っている。
この視点を持つことこそ、これからの日本の建築士にとって最大の学びではないでしょうか。

次回は、南半球へ。
持続可能な建築と、環境に配慮した建物「グリーンビルディング」デザインのリーダーとも言われる、オーストラリアの省エネについて探ります。

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※1電力需要が高くなる時間帯(ピーク)に、建物側が電力使用を自動的に減らしたり、時間をずらしたりする仕組みのこと。電力を発電所で増やすのではなく、建物側で負荷を減らして電力網(グリッド)を安定させるという考え方。

<参考資料>
1:CEC Building Energy Efficiency Standards
https://www.energy.ca.gov/programs-and-topics/programs/building-energy-efficiency-standards

2:Thomson Reuters Institute
https://www.thomsonreuters.com/en-us/posts/corporates/ira-uncertain-future/?utm_source=chatgpt.com

3:PwC
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/newsletters/electricity/202507.html?utm_source=chatgpt.com

4:ヒカリイク
https://www.endo-lighting.co.jp/hikariiku/with-energy/32548/

5:自然エネルギー財団
https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20220622_2.php

6:日本貿易振興機構(ジェトロ)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/n_america/us/biden_administration/report/2024_1.pdf

著者プロフィール
田中知代(たなか・ともよ)
株式会社空間メソッド企画 代表取締役
千葉市在住
建築設計事務所、建築物の遵法性調査、指定確認検査機関での勤務を経て起業。建築関係法規のコンサルティング、建築に係る教育、セミナーなどの業務を行う。千葉県建築士会主催の公開勉強会、法規セミナー、その他学校教育機関の講師経験など多数。実務に直結する法規教育を提供。
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一級建築士/建築基準適合判定資格者/宅地建物取引士/インテリアコーディネーター資格保有

株式会社空間メソッド企画 田中様による省エネコラム「アジアの建築省エネ最前線 ― 韓国・中国・日本の今を読み解く」をアップいたしました。

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世界の建築業界では「グリーンビルディング」が重要キーワードとなり、建物の設計から解体までのライフサイクル全体で、環境負荷を減らす考え方が広がっています。

アジアでも都市化の進展とともに、建物の省エネにとどまらず、CO₂排出の削減、再生可能エネルギーの導入、素材の低炭素化・ライフサイクル評価(LCA)などが大きなテーマとなっています。

今回は、韓国と中国の取り組みを中心に、日本との違いを交えながら、アジアの省エネ建築の流れを見ていきましょう。

●韓国 ― 国がリードする建築物の省エネ化●

日本が「国が枠組み、民間が実践と技術」というハイブリッド型で省エネを進めているのに対し、韓国は国が主導で強力に建築物の省エネを推進しています。

グリーンビルディングの考え方が反映されている例として象徴的なのは、2008年制定の「グリーン建築物基本法(Green Buildings Construction Support Act)」と、建物のエネルギー性能を“等級”で評価する「建築物エネルギー効率等級制度(BEECS)」です。

新築の公共建築物は、 2020年から段階的に高等級(ZEBグレードを含む)の義務化が始まり、2025年からは第3次「グリーン建築物基本計画(2025〜2029)」が開始されました。これによりBEECSと「ゼロエネルギー建築物(ZEB)認証制度」が統合され、申請手続きが簡素化されます。

また、30世帯以上の共同住宅や延べ面積1000㎡以上の民間新築建築物には、ZEBグレード5等級以上の取得が義務付けられるなど、規制が一層強化されました。

さらに、省エネ改修を行うと、低金利融資や税控除を受けられる「グリーンリモデリング支援事業」があり、古い建物も対象です。
「建て替える」よりも「賢く直す」方向へと政策が誘導されています。

●中国 ― 国土の広さを生かした地域別の省エネ基準●

中国では、2020年の建築物のCO2排出量が全体の50.9%を占め、CO2削減が喫緊の課題となっています。

政府は2005年から「省エネ設計基準(GB50189)」を制定し、5つの気候帯(厳寒・寒冷・暑夏寒冬・暑夏暖冬・温和)ごとに要件を細分化して基準を運用しています。
寒冷地では断熱を強化し、暑夏寒冬・暑夏暖冬地では日射遮蔽や自然換気などのパッシブデザインが重視されています。

また、中国独自の「グリーン建築評価標識制度(Three-Star)」では、建物の省エネ・水利用・環境素材などを総合評価し、星1〜3のランクで認定します。
高評価は補助金やブランドイメージ向上につながる一方、財政余力の差から都市間で認定件数にばらつきが生じる課題もあります。

さらに、地方では施工品質のばらつきや監理体制の不備も残り、中国は「基準づくり」から「運用・維持の徹底」へと段階を移しつつあるのです。

●アジアに共通する考え方 ― 自然との調和が鍵●

韓国も中国も、国が規制を強化し、強いリーダーシップを発揮して省エネ化を進めています。
しかしアジアの建築文化には、欧米とは違う独特の発想があります。
それは「自然と調和しながら省エネを実現する」という考え方です。

例えば、韓国の伝統家屋「韓屋(ハノッ)」には縁側のような中間領域があり、夏は風を通し、冬は日差しを取り入れます。
また、中国の伝統的住宅「四合院(スーフーユエン)」も、中庭を介して光と風を取り入れています。

日本の古民家も、軒の出・土壁・障子などで「自然の力を活かした温熱環境」をつくってきました。
アジアの建築は、データに頼りすぎない“感覚的な省エネ”を受け継いでいますが、同時に、近代的な数値基準との調和をいかに図るかという課題にも直面しています。

●日本の立ち位置と、アジアのこれから●

日本の省エネ制度については、第1回のコラムで解説しました。

→日本の省エネ基準、世界基準と比べてどこにいる?

日本の省エネ制度も、韓国や中国と同様、「基準+認証制度」によって成り立っていますが、省エネ性能の数値レベルでは依然として両国に比べて緩やかな部分も残っています。

アジア各国は今、欧米の水準に追いつこうと制度を強化しています。
しかし、歴史を紐解けば、欧米で「最先端」とされるパッシブデザインの多くは、アジアの伝統的建築物にすでに見られる思想でもあります。

自国の伝統的建築物の手法をいかに評価し、現代技術に融合させるかが、今、アジア各国の課題となっています。
私は、この課題を、韓国、中国、日本が互いに協力し合い、それぞれの国の「強み」を掛け合わせて解決できた暁には、アジア発の持続可能な建築モデルが世界をリードする日も近いと感じています。

次回は、再び西へ。
全米で最も環境規制が厳しい州であるカリフォルニア州の建物エネルギー効率基準「Title24」に焦点をあて、再生可能エネルギーを前提とした設計基準の仕組みを探ります。

<参考資料>
① Green Building Construction Support Act, Republic of Korea6~27
② Green Building Construction Support Act, Article 27
③ Korea Energy Agency, *Building Energy Efficiency Rating System Overview
④Updates to the China Design Standard for Energy Efficiency in public buildings
:Tianzhen Honga,n, Cheng Lia,DaYanb
⑤2017 CHINA GREEN BUILDING REPORT FROM GREEN TO HEALTH
⑥How Can China’s Green Building Sector Grow Fivefold by 2030
⑦World Economic Fourum:7 opportunities for green buildings in China
⑧General Code for Building Energy Efficiency and Renewable Energy Utilization (GB 55015-2021)

著者プロフィール
田中知代(たなか・ともよ)
株式会社空間メソッド企画 代表取締役
千葉市在住
建築設計事務所、建築物の遵法性調査、指定確認検査機関での勤務を経て起業。建築関係法規のコンサルティング、建築に係る教育、セミナーなどの業務を行う。千葉県建築士会主催の公開勉強会、法規セミナー、その他学校教育機関の講師経験など多数。実務に直結する法規教育を提供。
メルマガ配信やLINEオープンチャット「建築法規を好きになろう」の『つぶやき』で、建築法規をわかりやすく解説。千葉県建築士会会報誌「建築士CHIBA」で建築法規を楽しく学べる「基準法であそぼ」連載中。
一級建築士/建築基準適合判定資格者/宅地建物取引士/インテリアコーディネーター資格保有