「快適な夏」を考える ~ドイツの省エネ事情から~
ドイツは世界でも先進的な省エネ・脱炭素政策を進めている国のひとつです。建築物における省エネ施策は、長年にわたって段階的に強化されてきました。そんなドイツですが、「夏は過酷」と言われることがあります。今回は、「快適な夏」をテーマにドイツの省エネについて考えてみます。
●エアコンがないのに、快適に過ごせる理由●
まず驚くのは、ドイツの住宅におけるエアコンの普及率。2023年時点でわずか13%程度と言われており、都市部でもエアコンなしで過ごす家庭が大多数です。日本のエアコン普及率が約90%に迫ることを思えば、その低さが際立っていることがわかります。
これには理由があり、ドイツでは住宅の性能を高めること自体が最大の省エネという考え方が根づいています。そのため、住宅の断熱・気密性能が非常に高く、トリプルガラスの窓は当たり前、外壁には20〜30cmの断熱材が使われることもあり、建物そのものが「夏涼しく、冬暖かい」構造になっているのです。
●快適さは“暮らしの工夫”とともに●
ドイツの家々では、外付けブラインドや厚手のシャッターで太陽熱を「建物の外」で遮る工夫が徹底されています。日本ではレースカーテンで遮光するイメージがありますが、ドイツ流は“窓の外で防ぐ”が基本です。
また、昼間はシャッターやカーテンを閉め、夜に窓を開けて涼しい空気を取り入れる「ナイトパージ(夜間通風)」も一般的。
こうしたパッシブ技術(自然を活かした設計)と暮らしの知恵によって、「設備に頼らない快適さ」を実現しているのです。
●気候変動と向き合う、ドイツの転換点●
とはいえ、ドイツでも近年は40℃近い猛暑日が出現し、エアコン需要は増加傾向。実際、ドイツ国内でのエアコン出荷台数は過去10年で3倍以上に増えており、特に都市部や高齢者施設では導入が進んでいます。
それでも、「とりあえず設置する」という発想ではなく、“まず建物性能と自然の工夫で可能な限りしのぐ”というスタンスが一貫しています。
●日本の古民家に息づく“受動的な涼しさ”●
ドイツが「熱を入れない設計」で快適な夏を実現しているように、日本の古民家にも自然と調和した涼しさの工夫がありました。
谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』に描かれるように、深い軒や大きな屋根で日差しを遮り、柔らかな光と風を招き入れる設計思想が根づいています。
土壁の蓄熱・調湿や風通しの良い間取り、すだれの活用なども、ドイツの外付けブラインドやナイトパージと重なります。
エアコン中心の現代だからこそ、「熱を入れない」「風を通す」「日陰を活かす」といった“受動的な涼しさ”を、もう一度暮らしの中に取り戻したいところです。
●まとめ:設備より“ベース性能”が主役●
ドイツの住宅に見られる「熱を入れない設計」は、エネルギーに頼らずとも快適に過ごすという発想の表れです。高断熱・高気密の構造や外付けブラインド、自然の力を活かす暮らし方は、暑さを“排除”するのではなく、“調和”する姿勢といえるでしょう。
同じように、日本の古民家にも自然とともに涼を得る工夫が息づいていました。断熱や日陰、風通しを活かす設計は、現代の省エネ住宅と本質的に通じるものがあります。
これからの省エネは、単に最新の設備を導入することではなく、建物のあり方や暮らし方そのものを見直し、自然の力を受け入れながら整えること。
ドイツの事例は、そんな“受動的な快適さ”の可能性をあらためて私たちに教えてくれているのではないでしょうか。
次回は、フランスの「美意識と省エネの両立」に焦点を当ててみたいと思います。どうぞお楽しみに!
(https://kukan-method.com)
建築設計事務所、建築物の遵法性調査、指定確認検査機関での勤務を経て起業。建築関係法規のコンサルティング、建築に係る教育、セミナーなどの業務を行う。千葉県建築士会主催の公開勉強会、法規セミナー、その他学校教育機関の講師経験など多数。実務に直結する法規教育を提供。
メルマガ配信やLINEオープンチャット「建築法規を好きになろう」の『つぶやき』で、建築法規をわかりやすく解説。千葉県建築士会会報誌「建築士CHIBA」で建築法規を楽しく学べる「基準法であそぼ」連載中。