日本の省エネ基準、世界基準と比べてどこにいる?
~建築物省エネ法の変遷とこれからのロードマップ~
建築物の省エネ基準について、「日本の基準は世界的に見てどのレベルなのか?」と思われたことはありませんか?
結論から言えば、これまで日本は「世界の中では少し遅れ気味」だったと言えます。
しかし、2025年改正(実際には2024年4月から大規模非住宅建築物の省エネ基準引上げ)や、2030年に向けた政府のロードマップを見ると、いよいよ日本も「世界基準に追いつこう」という動きが本格化してきています。
なぜそう言えるのでしょうか?
その理由は、日本の省エネ基準のこれまでの変遷と世界の動向を比較するとよくわかります。
●日本の省エネ法制の歩み●
【1979年】
◆ オイルショックを契機に「省エネ法」が制定。
当初は、工場など事業所でのエネルギー管理が対象でした。
【1980年代~1990年代】
◆住宅や建築物向けに「告示による省エネ基準」が登場。
「旧次世代省エネ基準(1999年基準)」などが代表例です。
ただし、当時は“努力義務”にとどまっていました。
【2000年代前半】
◆ 大規模非住宅建築物(2000㎡超)に対して、「届出制度」がスタートし、一次エネルギー消費量による評価が導入されました。
【2015年】
◆ 「建築物省エネ法」が新設され、建築分野の省エネ規制が独立法化。設計者、建築主、審査機関にとっては大きな転換点となりました。
【2017年~2025年】
◆段階的義務化が進行
2017年:300㎡超の非住宅で省エネ適合義務化
2021年:住宅へ説明義務化
2025年:すべての新築建築物に省エネ適合義務化(小規模住宅も含む)
【2027年~2030年】
◆ 国は、ZEH水準、ZEB水準の義務化に向けた法改正を検討中です。
●世界の省エネ基準は?●
【ヨーロッパ】
2000年代から段階的に義務化が進み、2021年には、EU全体で『Nearly Zero Energy Building(nZEB)』の義務化がスタート。
住宅も非住宅も、一定規模以上の新築建築物は「ほぼゼロエネルギー建築」が原則です。
【アメリカ】
IECC(International Energy Conservation Code)による州ごとの基準運用が一般的。
特にカリフォルニア州では、2022年から非住宅建築物や低層以外の集合住宅に太陽光発電が義務化されました。
日本のZEH・ZEB基準と比較すると、「ようやくIECC2015版以降レベルに追いつきつつある」というのが現状です。
【アジア】
韓国や中国でも、近年は省エネ基準強化が急速に進展。都市部では、日本よりも厳しい基準が適用されるケースも増えています。
●日本は今、どこにいるのか?●
こうした世界の動きと比べると、日本は「ようやく2025年で、義務化スタート地点に立つ」といえるのが現実です。
ただ、ここからが重要なポイントです。
国は2027年、2030年に向け、さらに性能レベルを引き上げる予定です。
「ZEH水準の断熱性能と省エネ性能の義務化」もすでに国土交通省が示唆しています。
●今、実務者が備えるべきこと●
この変化の中で、実務者が今から取り組むべきことは何でしょうか。
それは、単に「適判を通すための計算技術」だけではありません。
プランニングの初期段階からエネルギー性能を考慮する設計思考、そして「設備頼みではない断熱・日射制御計画」や「未来を見据えた施主への提案力」が求められます。
世界基準へのキャッチアップは、負荷も大きいですが、それは同時に「より良い建築を生み出すチャンス」でもあります。
今後、「各国の詳細な省エネ基準」や「求められる性能水準」についても、さらに解説していく予定です。
どうぞお楽しみに!