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省エネコラム

ゆりかごから墓場まで~フランスの環境性能規制RE2020から~

フランスといえば、石造りの建築が街並みと調和し、生活様式にも美意識があふれる魅力的な国です。そんな優雅な街も、気候変動により、この夏の最高気温は約40℃。それにもかかわらず、エアコンの普及率はわずか25%程度です。

今回は、2020年に成立し、移行期間を経て2022年に施行されたRE2020について紐解きながら、気候の変化を”設計で解決する“という道を選んだ、フランスの環境政策について考えてみます。

●RE2020(Réglementation Environnementale 2020)(2020年環境規制)とは何か?――エネルギーから環境へ●

RE2020とは、これまでの「省エネ基準」から一歩進んで、建物の“環境負荷全体”を評価する仕組みです。エネルギー性能に加えて、建材の生産時、建物の使用期間中、さらには解体・廃棄にいたるまでのライフサイクルCO₂排出量(LCA)を考慮します。

設計段階から環境影響を見える化し、温室効果ガスの抑制につなげる取り組みで、カーボンフットプリントの削減を前提にした設計が求められます。

これにより、建材を選ぶ行為そのものが「CO₂を設計する」こととなり、デザイン、性能、コストの3拍子に、「環境性能」という新たな軸が加わりました。

●設計実務とLCA(ライフサイクルアセスメント)●

RE2020では、構造形式や断熱材、外壁仕上げなどが、それぞれどれだけCO₂を排出するかという定量的なデータと結びついており、設計初期における方向性が建物全体のエコスコアに影響します。

たとえば、製造時に1000℃以上の高温が必要な鉄、セメント、ガラス等より、低環境負荷の木造へ、石油系ウレタン断熱材から天然系セルロース断熱材へといった選択が、性能評価書に反映されます。

設計者はもはや「機能を満たす」だけでは不十分であり、建物の「ゆりかごから墓場まで」の過程を考慮し、建材と形、そして環境をデザインすることが、フランスの建築にとって新たな“責務”となりました。

●美意識が省エネを導く●

RE2020が象徴するのは、環境規制だけではありません。そこにはフランスらしい“美意識”が息づいています。たとえば、フランス政府は国民に「タートルネックを着よう」と呼びかけ、マクロン大統領をはじめとする閣僚がスーツをやめて記者会見に登場したのは有名な話です。

このエピソードは、単なる節電対策にとどまらず、「無理なく美しく暮らす」省エネスタイルを提案するものでした。エッフェル塔の消灯、暖房温度の制限、街灯の時間短縮──こうした取り組みが公共空間と暮らしのバランスを問い直す提案となっています。

「環境配慮」を単なる義務として押しつけるのではなく、文化や美学として共有し、スタイルへと昇華させる姿勢は、RE2020の根底にあるフランス的価値観を感じさせます。

●都市インフラまで巻き込んだエネルギー改革●

RE2020の背景には、エネルギー政策の矛盾もあります。太陽光などの再エネ比率が高まる一方で、需要が下がると原子力発電が余剰となり、出力制御が求められる事態も起きています。

美術館・博物館・国有庁舎といった公共建築の省エネも進み、政府は19℃以下の暖房、温水提供の中止、職員への鉄道移動の推奨などを実施。建築が都市インフラとリンクしながら、国家的な省エネ改革の軸となっています。

●建築士に問われる「社会的想像力」●

RE2020が求めるのは、省エネだけを考慮した「エネルギー効率の高い建物」ではなく、「社会や未来に責任をもつ建築」です。それは単に数値目標を達成することではなく、人々の暮らしと文化、ひいては国家のエネルギー戦略に呼応する“社会的想像力”の具現化でもあります。

「CO₂を設計する」──RE2020は、建築設計の価値観そのものをサステナブル建築に転換するフランスの先進的な取り組みなのです。

次回は、寒冷地でも快適性と省エネを両立させる「スウェーデン」に焦点を当ててみたいと思います。どうぞお楽しみに!

著者プロフィール
田中知代(たなか・ともよ)
株式会社空間メソッド企画 代表取締役
千葉市在住
建築設計事務所、建築物の遵法性調査、指定確認検査機関での勤務を経て起業。建築関係法規のコンサルティング、建築に係る教育、セミナーなどの業務を行う。千葉県建築士会主催の公開勉強会、法規セミナー、その他学校教育機関の講師経験など多数。実務に直結する法規教育を提供。
メルマガ配信やLINEオープンチャット「建築法規を好きになろう」の『つぶやき』で、建築法規をわかりやすく解説。千葉県建築士会会報誌「建築士CHIBA」で建築法規を楽しく学べる「基準法であそぼ」連載中。
一級建築士/建築基準適合判定資格者/宅地建物取引士/インテリアコーディネーター資格保有

「快適な夏」を考える ~ドイツの省エネ事情から~
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