スウェーデンに学ぶ建築と省エネの未来 ~法制度・都市計画・住文化が支える省エネ社会~
北欧の中でもスウェーデンは、省エネと再生可能エネルギー活用を早くから進めてきました。寒さの厳しい気候環境の中で暖房エネルギーを抑えつつ快適な住まいをどう実現するかは、建築における重要な課題です。
今回は、スウェーデン建築基準法や都市計画、住文化に根差した取り組みを通じて、スウェーデンの省エネについて考えてみます。
●建築基準の進化と一次エネルギー数値方式●
かつてスウェーデン建築基準法(BBR)は、地域ごとに「specific energy use(購入エネルギー量)」の上限を定めていました。一般住宅では110 kWh/㎡・年を超える暖房エネルギーを消費する住宅の建築が許されず、建築許可の必須条件でした。
しかし、この方式は電気や地域暖房、バイオマスといったエネルギー源の環境負荷の違いを十分に反映できないという課題がありました。
そこで2017年以降、評価は primary energy number(一次エネルギー数値)方式へ移行しました。この方式では電気に高い係数(例:2.0)、地域熱や再エネには低い係数(1.0以下)を設定し、エネルギー源ごとの環境性能を定量的に評価できます。
従来の単純な消費量基準の不公平を是正するとともに、2045年カーボンニュートラルという国家目標とも整合し、建築分野とエネルギー政策を直結させる仕組みが構築されています。
●都市レベルのサステナブル開発●
スウェーデンの省エネは、建物単体にとどまらず、都市全体のシステムと結びついています。
ハマービー・ショースタッド(ストックホルム)
1990年代のオリンピック選手村計画を契機に誕生したエコタウンで、廃棄物リサイクルや地域熱供給を統合した「ハマービーモデル」により環境負荷を半減し、ヨーロッパ環境大賞を受賞しました。
廃棄物や排水をエネルギーや肥料として循環させる仕組みは、都市スケールでの先進例です。
マルメ市ウェスタンハーバー
造船所跡地を再開発し、地域熱供給と太陽光発電を組み合わせて電気・熱需要の多くを再生可能エネルギーで賄い、太陽熱や海水を利用した熱交換システムも導入され、住民生活を支えています。
●暮らしに根付くサステナブル文化●
スウェーデンの住宅文化は「長く使う」発想が根付いています。全国の建物ストックの約12%が1930年以前の建築であり、築95年以上のマンションも現役です。
丁寧なリノベーションで資産価値を維持し、新築が高評価となる日本の文化とは対照的です。
暖房面では、ストックホルムで普及率80%を超える地域暖房システムが稼働し、廃熱や再生可能エネルギーの利用率は約90%に達します。家庭ごとの設備に頼らず、都市全体で効率的にエネルギーを共有する仕組みが整っています。
さらに、世界最大級の「木造都市」構想が進行中で、CLT*1を用いた高層住宅やオフィスが建設され、木材の炭素固定効果とスカンジナビアらしいデザイン性が両立しています。
●建築士に求められる視座●
スウェーデンの事例は、法制度・技術・生活文化が三位一体で機能している点に特色があります。
primary energy number(一次エネルギー数値)方式は、断熱材や機器効率を規定せず、建物全体を一次エネルギーで評価します。
これにより、断熱強化・設備効率化・エネルギー源選択・再エネ導入など多様な手段を組み合わせ、省エネ解を創造的に導く余地が広がります。
さらに、EUの建築物エネルギー性能指令(EPBD)と整合し、国際的な比較や建材評価の競争力も高めます。
省エネと脱炭素を一体化し、都市インフラとの連動を促す仕組みです。
日本でも2025年から新築建物への省エネ基準適合が義務化され、都市システムや住文化との調和する建築提案が建築士に求められています。
●スウェーデンに見る建築の未来志向●
スウェーデンの省エネへの歩みは、建築が社会の持続可能性を支える柱であることを示しています。
建築士には、断熱や設備性能の向上を超え、都市インフラや暮らしと調和する設計が求められます。
環境先進国の実践を学ぶことは、新たな発想を切り拓き、持続可能な社会に貢献する建築を生む力となるでしょう。
次回は、わが国、日本の古民家について焦点を当ててみたいと思います。どうぞお楽しみに!
*1:CLTとはCross Laminated Timber(JASでは直交集成板)の略称で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料です。
一般財団法人 日本CLT協会HPより
建築設計事務所、建築物の遵法性調査、指定確認検査機関での勤務を経て起業。建築関係法規のコンサルティング、建築に係る教育、セミナーなどの業務を行う。千葉県建築士会主催の公開勉強会、法規セミナー、その他学校教育機関の講師経験など多数。実務に直結する法規教育を提供。
メルマガ配信やLINEオープンチャット「建築法規を好きになろう」の『つぶやき』で、建築法規をわかりやすく解説。千葉県建築士会会報誌「建築士CHIBA」で建築法規を楽しく学べる「基準法であそぼ」連載中。