建物がエネルギーを支える時代へ ~カリフォルニア州 Title24 に学ぶ~
アメリカの省エネ政策は、第2期トランプ政権の発足により、パリ協定離脱や化石燃料生産の促進など、気候変動対策から大きく方向転換しています。
しかし、実際に建築物の省エネを支えているのは「州」の取り組みです。なかでもカリフォルニア州の建築エネルギー効率基準「Title24」は、連邦政府の方針が揺れる中でも強い独自性を持ち、世界でもトップクラスの省エネ水準を維持しています。本コラムでは、その背景を制度から紐解いていきましょう。
●アメリカの省エネ基準は“国の法律”では完結しない●
アメリカの建築物に関する省エネ基準は、連邦政府が一律に決めるのではなく、各州が独自に基準を制定できる権限を持っています。
連邦政府は「IECC:International Energy Conservation Code(国際省エネルギーコード)」や「ASHRAE standard 90.1」などの推奨省エネコードを示しますが、その採否や上回る基準づくりは州ごとの判断に委ねられています。
これにより、地域の気候や産業に合わせたきめ細かな制度設計が可能となる一方、州ごとに省エネ基準の厳格さに差異を生む要因にもなっています。
カリフォルニア州では、この権限を積極的に活用し、独自の基準「Title24」を発展させてきました。
Title24は、断熱・設備効率に加え、電化、太陽光発電、蓄電池、換気など、建物全体のエネルギー設計を包括的に扱い、州のエネルギー政策を直接反映できる点が特徴です。
●トランプ政権で起きた“連邦の後退”と混乱●
バイデン政権では気候変動対策として、省エネ強化や連邦施設の脱炭素化を推進していましたが、トランプ政権になると政策が大きく転換しました。
連邦建物の省エネ基準の適用停止、環境規制の見直し、再エネ支援の縮小などが相次ぎ、国としての省エネ推進力は低下しました。
この方針転換により、建築業界では補助金や税制優遇の見通しが不透明となり、省エネ設備への投資判断が難しくなる場面も生まれました。
しかし、その一方で、州の取り組みがむしろ存在感を増してきました。
●それでも Title24が世界をリードする理由●
Title24は1978年に導入されて以来、3年ごとに見直され、最新版は2025年に発表されています。連邦政府の方針が変わっても、Title24が一貫して強化され続けているのには理由があります。
まず思想的背景として、カリフォルニア州では建物を単なる私有財産ではなく、電力需給や気候変動対策、災害や停電などの非常時にも機能を維持し、回復できる力を支える社会インフラの一部として捉えてきました。
そのため省エネ性能の向上は努力目標ではなく、社会的責務と位置づけられています。
さらに干ばつや猛暑、山火事、停電といった深刻な気候条件のもと、大規模な発電所と送電網による集中型エネルギーシステムの限界が明確になり、建物単位で太陽光発電・蓄電・需要応答※1を含む電化を統合する分散型エネルギーが求められました。
思想の一貫性と厳しい現実が重なり、Title24は省エネ基準を超えた制度へ進化し、その結果、Title24は世界的に非常に高い評価を得ています。
●最先端が立ち返る、建築の原点●
Title24 の根底にあるのは、建物単体の性能評価ではなく、社会全体のエネルギー循環の中での役割です。
今、建築士に求められているのは、「断熱だけを良くする」「設備だけを高効率化する」という性能の足し算ではなく、建物全体のエネルギーの流れを設計する力なのです。
ここで面白いのは、Title24 が示している思想が、日本の古民家がもともと持っていた考え方と深く重なることです。
古民家は、電気や機械設備が乏しい時代に、日射を取り込み、風を通し、熱を逃がし、季節ごとに使い方を変えることで、自然エネルギーを受け止め、調整する装置でした。
Title24 もまた、機械で全てを制御するのではなく、時間帯、需要、天候、行動との関係性を前提にエネルギーを設計しています。
最先端の省エネ基準が、最も古い日本建築の知恵に立ち返っている。
この視点を持つことこそ、これからの日本の建築士にとって最大の学びではないでしょうか。
次回は、南半球へ。
持続可能な建築と、環境に配慮した建物「グリーンビルディング」デザインのリーダーとも言われる、オーストラリアの省エネについて探ります。
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※1電力需要が高くなる時間帯(ピーク)に、建物側が電力使用を自動的に減らしたり、時間をずらしたりする仕組みのこと。電力を発電所で増やすのではなく、建物側で負荷を減らして電力網(グリッド)を安定させるという考え方。
<参考資料>
1:CEC Building Energy Efficiency Standards
https://www.energy.ca.gov/programs-and-topics/programs/building-energy-efficiency-standards
2:Thomson Reuters Institute
https://www.thomsonreuters.com/en-us/posts/corporates/ira-uncertain-future/?utm_source=chatgpt.com
3:PwC
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/newsletters/electricity/202507.html?utm_source=chatgpt.com
4:ヒカリイク
https://www.endo-lighting.co.jp/hikariiku/with-energy/32548/
5:自然エネルギー財団
https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20220622_2.php
6:日本貿易振興機構(ジェトロ)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/n_america/us/biden_administration/report/2024_1.pdf
建築設計事務所、建築物の遵法性調査、指定確認検査機関での勤務を経て起業。建築関係法規のコンサルティング、建築に係る教育、セミナーなどの業務を行う。千葉県建築士会主催の公開勉強会、法規セミナー、その他学校教育機関の講師経験など多数。実務に直結する法規教育を提供。
メルマガ配信やLINEオープンチャット「建築法規を好きになろう」の『つぶやき』で、建築法規をわかりやすく解説。千葉県建築士会会報誌「建築士CHIBA」で建築法規を楽しく学べる「基準法であそぼ」連載中。